2012年4月29日日曜日

アメリカの夜

ビデオカメラで撮影、編集する実習授業を担当している。

授業で撮影した動画素材をプレビューしてもらうと、ときどき「!」とか「?」な素材を見ることがある。

画面は薄暗く、どうやら屋外のようである。照明も何もない。画面の下方に何か動くものがあるが、ピントは合っていないし、色も判別不可能、ゲイン(感度)を上げすぎてノイズが多い。

「何、これ」と学生に問うてみる。
「夜の海岸で、主人公が散歩しています」。
「動いているのは、人なの?」。
「主人公が連れている犬です」。
「うーん、暗すぎて何がなにやら」。
「そうなんですよお。月も出ていなかったし、海岸なので街灯も何もないじゃないですか」。
そう言われても、私にはその現場はわからないので、同意できない。相変わらず、学生との会話は禅問答である。

映像制作においては、自分の目で「暗い」こと、実際に「暗い」こと、撮影された画面の上で「暗い」こととは、全く違う。作品をつくるという課題なのであるから、最終的なアウトプットがきちんとしていなければならない。「暗くて撮影できない」のは、暗い画面の言い訳でしかない。

フィルムの撮影技術の一つに「アメリカの夜」というのがある。昼間の撮影だがレンズフィルターを使って「夜」に見せる、というものである。画面の上で「それっぽく」見えることであっても、実際の状況が「それ」とは限らない。こうして映像はオーディエンスを騙すのである。

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