2013年8月30日金曜日

連絡網

子どもの年齢に合わせたダイレクトメールがやってくるんだよねー、などというのは、ちょいと前の世代の話である。そのダイレクトメールに書かれた住所は、どこからか流れて出ているわけである。

ところが、現在の小学校や中学校では、クラス内の住所録はおろか、連絡網すらつくらないところがあったりする。
個人情報保護法というのが出来てから、少しうるさくなったらしい。しかし、実際のところは家庭の環境というのが変わってきたこともあるらしい。
我々の頃だと、クラス連絡網、というのが存在した。先生が主要な数人のおうちに連絡すると、そのおうちが3から4件のおうちに連絡する。それを伝言ゲームのように伝えていく、という方式である。私が小学校の頃は、電話がおうちにない、というお宅もあったので、「伝令」つまり歩いて伝えにいく、というのが、連絡網の最後の方に並べられていた。

翻って現在は、核家族共稼ぎでおうちにいない、携帯電話の方がつながる、あるいは携帯電話2台3台持ちのご家庭、両親は携帯電話持ちで家庭の固定電話なし、など、電話連絡の状況が激変した。10年ほど前から同居人の勤務している小学校では、ご両親祖父母など登録された家族の携帯電話に緊急時一斉同報メールなどの運用試験を繰り返していた。メールは一方的に送っても開封したのか、了解したのかわからないので、確認返信の方法などずいぶん試行錯誤していた。便利なんだか、不便になったのか、よく分からない。
もちろん、保護者同士で連絡をやり取りする必要もないので、お互いの連絡先は知らなくても大丈夫。着信確認と問い合わせで忙しいのは、メールを発送している学校側だけである。

連絡網の前後のおうちとは、連絡することもあって顔見知りならぬ「声見知り」になったり、参観日に初めて顔を突き合わせたり、というようなこともあったのだが、今はそういった横のつながりも希薄になっているのかもしれない。

2013年8月29日木曜日

賞味期限

インターネットで連絡をやり取りするようになって、おおお、と思ったのは「迷惑メール」である。
それ以前の生活だと、いわゆる「ダイレクトメール」とか、「投げ込みチラシ」というのが、それにあたるのだろうか。

私の少し下の世代だと、高校を卒業した頃に、化粧品会社からサンプルがいきなり送付される、景品付きのメークアップ講習会の参加案内が送られてくる、成人式用の振り袖の案内が送られてくる、くらいだった。その下の世代だと、学習塾、お受験塾案内などが来るようになった。

同居人には元奥さんと早世した娘がいたのだが、その娘宛に学習塾、予備校、大学や専門学校案内、振り袖、就職活動案内、ブライダル産業と、数えて25歳くらいまではダイレクトメールがずいぶん来ていた。どこから住所録を入手したのかわからないが、「この世にいない」という選択肢が、現在の社会ではあまりないのだなあと思ったし、存在しない子ども目当てのダイレクトメールは見るに辛いものがあったりする。
元奥さん宛には、保険、カード、宝石呉服衣類ブランド関係など、あれこれ来ていた。うーん、消費活動が旺盛だったようである。

あまりに多いので、居住者のフルネームを郵便箱に貼った。その日に、居住していない元家族向けのDMが入ってきた。
郵便物というのは、苗字しか見ないで配達されるものなのだあと思った。
元家族あてのダイレクトメールも、いなくなって、10年ほどで配達されなくなっただろうか。そこいらあたりが業者が入手した住所録の賞味期限なのかもしれない。

そろそろ人生も佳境が過ぎようという現在では、投げ込まれる「管理栄養食宅配弁当」のチラシに、なぜ年齢がばれているのかとつい疑心暗鬼になってしまう今日この頃である。

2013年8月28日水曜日

ご迷惑

インターネットでメールを利用するようになって、おおお、と思ったのは、「迷惑メール」であった。
ある日、メールボックスを開けてみると、得体の知れない「件名」で、見ず知らずの人からメールがやってくる。


from:けい子
sub:一人では寂しいので……。


from:逆援助志望有閑マダム
sub:求む交際。いくらなら大丈夫ですか。

……だから何だ。

独身寂しい男性とか、妄想もりもりなオジサンなら、「おおお」と思って、メールを開封するのだろうが。オバサンはあまり関係がないのである。
親しくしている友人のところも、この手の「迷惑メール」がかなり来ていたので、一時「迷惑自慢」で盛り上がっていたことがあった。

色気のないところでは、「当選いたしました!」とか、「おめでとうございます!」とかいうのもあった。でも圧倒的に多いのは男性向けの「色気」作戦である。世の中の男性というのは、かくも安易な色気作戦に弱いということが窺えるというものである。そういった前科があるから現在の文化や文明があるとも言えるのかもしれないが。

2013年8月22日木曜日

ウルトラマン

今年の夏はことに暑いような気がする。学生時代もこんなに暑かったかしらん。
そう言えば、と学生時代の先輩のアルバイトを思い出した。

学生時代のアルバイトと言えば、単純労働が多いのだが、肉体系重労働だとかなりペイが良いのが相場である。女子学生はガテン系な仕事にありつける率が低いが、男子学生が短期で一気に稼ぐには日雇い土方が一番である。
その先輩のある夏休みの肉体労働が「ウルトラマン」だった。

夏休みになるとデパートの屋上や遊園地のステージでコスチュームショーというのを子ども相手に開く。テレビでおなじみの正義の味方が変身後の姿でやってくるのである。
かきいれどきは、都内数カ所で同時に同じ正義の味方が出現する。
変身後の正義の味方は、全身を覆い隠すコスチュームに仮面が定番である。夏休みのショーは肉体的に過酷で、「日雇い土方」ほどの労働条件となったそうである。ペイはいいのだが、暑いので、ワンステージでぐったり。だから長時間労働や連日連夜の荒稼ぎは無理。相対的にみれば、長時間単純労働と稼ぎはあまり変わらないかもしれない。

先輩がコスチュームショーの中身、というバイトにありついて、集合場所の事務所に行くと、ずらりと「正義の味方の抜け殻」が並んでいて、サイズの合うのを探して中身になる、というものだったそうだ。だから、小柄な男子学生は「ピンク色のスカートつき正義の味方」になったりするのである。全身衣装なので、中身の性別は問わないらしい。抜け殻に合わせたアクションや見栄の切り方など教わって、お仕事である。
先輩は「ウルトラマン」の担当となり、初仕事とあいなった。デパートの屋上でしゅわっちと見栄を切り、子ども達にやんやの喝采を受ける。ステージの後は、子ども達がぞろぞろと壇上にあがり、そのまま「握手会」である。お天気のよい、夏休みの昼間、ウルトラマンの中身は張り切ってお仕事をしたので、汗だくである。ウルトラマンの衣装は、全身合成皮革である。かいた汗はウルトラマンの内部に滞留する。重力に従って、汗は下方、さきっちょにたまるのである。子どもと握手をするときは、汗のたまった手袋越しである。
「にちゃー」
という微妙な感触で、とても地球人のものとは思えないらしい。たいていの子どもは、握手をしたとたん妙な笑顔になったそうである。
ウルトラマンは、子ども達に手を振って、汗のたまったブーツからちゃぷちゃぷと音をさせながら去るのであった。

2013年8月21日水曜日

シベリア

同世代、あるいはその前後の卒業生と出会ってよく盛り上がるのは「シベリア」である。

実技科目の点数が足りないと、冬休みなどに補講をしてくれるのだが、そのアトリエのことをそう称していた。
古いプレハブ校舎、すきま風、コンクリ土間、もちろん土足のアトリエである。石油ストーブは、とりあえず設置してあるが、この季節はあまり効率よくきかない。本当の極東地方であるシベリアを知っている人から見れば屁でもないだろうが、落第寸前、崖っぷち、広いアトリエで数名がしこしことデッサンをしておるので、わびしさ悲しさ寒さひとしお、である。

夏の通信教育課程では、アフリカとか赤道を通り越して「フライパン」な環境のアトリエが出現していたが、通学生にとっての合い言葉は冬の補講期間に落ちこぼれの間に出現する「シベリア」である。

シベリア校舎は既に取り壊されて、新しい大きな校舎がつくられた。もちろん全館冷暖房完備である。
フライパンなアトリエは、大掛かりな改修工事をしていたので、当然のように冷暖房エアコン付きになっている。
今は昔、だなあと、校舎の脇にある大きなエアコンの室外機を眺めながら思うのである。

2013年8月19日月曜日

フライパン

同居人は、美術学校の通信教育課程に数年通っていた。
通信教育というのは、レポートや課題作品を郵便で送って、添削やら先生のコメントやらが返ってくる、というやりとりで学習を進める。夏休みと冬休みには「スクーリング」というのがある。そちらでは「面接授業」と称するのだが、まあ普通に教室やアトリエで作業したり講義を聞いたり、という方法である。会社などでお休みが取りやすい時期だというのと、通学課程の校舎を流用するので、通学の学生の長期休暇中に授業が行われる。
つまり、気候的には非常に厳しい時期、ということである。

15年とか20年前くらいまではキャンパス内にはほとんど冷房設備のある教室やアトリエはなかった。「夏は暑いもの」だったのである。
さて、油絵学科のアトリエは、三角屋根のすてきな校舎である。北側に大きな窓があって、天井が高く、隣の教室は「斜め」に配置されていて、隣の教室との干渉度が低く、独立性が高い。アトリエは2階にあって、1階は大きな吹き抜けになった、空間的には贅沢なつくりだったりする。設計家にとっては代表作の一つになっているようなデザインである。
同居人は油絵の専攻だったので、夏はこの校舎のアトリエで作業をしていたのだった。通信課程の学生の間ではこの校舎は「フライパン」と呼ばれていた。天井は高いが天井裏はない。鉄板の天井は太陽熱を直に伝えるうえに、開口部が少ないので風が通りにくい。汗だくな作業だったそうである。

美術学校の校舎の中には「おしゃれー」で「モダーン」な外観だったりするのがあるが、デザインと住み具合というのは別物だったりするのである。

2013年8月16日金曜日

花咲か爺

拙宅の近所では、夏になるとなぜか「ひまわり祭り」というのがある。郊外の都市型農業地域で、ひまわり畑を見せる、というものである。隣の市の「ひまわり祭り」では、巨大ひまわり畑迷路というのが定番らしい。背丈よりも大きなひまわり畑で、ずいぶん前に行ったことがある。畑の名に恥じず、結構蚊に食われてしまったので、それ以来遠巻きに眺めるようになった。
このあたりは小麦の生産が盛んなところで、裏作にひまわりをつくっているのだと言う。まあ観光資源になるなら一石二鳥とか三鳥めかということなのだろう。

ひまわりと言うと、友人に聞いた「ある先生」の話をよく思い出す。
先生は、大学の授業が終わって、学生とビールを飲みながら議論、酔っぱらった帰り道にポケットから何かを出して、あちこちでぱらぱらとふりまいていたそうである。何だろうと考えたが、その後すっかり忘れていた。学校が夏休みになったが、図書館に行く用事があった。先生が酔っぱらって歩いた道沿いに、ひまわりがたくさん咲いていた。先生はひまわりの種をまいていたのだった。

2013年8月14日水曜日

パスワード

大学のイントラネットというのは、素人で構築できるような大きさではない。たいていはアウトソーシングで、専門の業者が担当するかたちになっていることが多い。入ってくる企業によって、使うシステムや得意分野が違うらしく、私の大学では今いくつめかの業者さんが作業をしている。どういう仕組みで受注業者を決めるのかは、一講師には知りようがないが、美術大学というのはただでさえいろいろなOSだのシステムだのが使われているので、めんどくさい現場だろうなあとは思う。
それに比べれば、一般的な大学はあまりそのあたりの多様性は考えなくてもいいのかもしれない。だからちょっとびっくりなシステムに出くわすことがある。

相方の行っている学校の一つは、いわゆる総合大学である。さまざまな学部もあり、学生数も多い。だからシステムもかなり気を使っているのだろうと思われる。こちらも非常勤講師の成績送信用にアドレスとパスワードを就任時に書類配布、60日以内に初期パスワードを再設定するとシステムにログインできるようになっている。たいがいの大学はパスワードは英数字で何文字以上、というのが多いが、そこはなぜか「記号」なのである。ひとつめが「牛」、二つ目が「犬」、三つ目が「カエル」の組み合わせになっていて、それが初期パスワードになっている。変えるのも、10種類の動物から選んでね、というもので、他に「羊」「虎」「ヤギ」「ゾウ」「蛇」「馬」「猫」「ネズミ」なんかが、可愛らしいアイコンで並んでいる。
うーむしかし、むしろ、かえって覚えにくい。

だからといって「犬」「犬」「犬」にしたら、簡単に「パスワード」を突破されそうである。

2013年8月2日金曜日

提出

昨今、大学の事務作業のコンピュータ化というのは著しいものがある。
20年前は手書きの成績表で、書留で学校に送っていた。その後は、ワープロの書類に書き込んだものをフロッピーで提出したりしていたのに、今やデータで送信である。
もちろん「超」個人情報であるので、提出には気を使う。
基本的には、校内のネットワークで送信することが前提である。同居人のように週1回の出講、遠くの学校だと物理的に難しいのでインターネットで送信することになる。

そういった学内事務組織へのデータ送信というのは、学校によってずいぶん違いがある。たいていは、年度始めにメールアドレスとパスワードなんかのメモが送られてきて、一緒に「成績データ送信について」などというマニュアルが入っている。
一度やり慣れれば、簡単なものだろうが、成績の入点など半年に1回である。たいていはログインでトラブる。
「パスワード発行後、60日以内に任意のパスワードに変更しない場合、初期発行のパスワードは無効になります」
などという小さな字の注意書きが、よおーく探すと見つかったりする。
成績を入れるのは授業が始まって3-4ヶ月先なのだから、それまでは「成績データ送信システム」など見もしない。

同居人の習性で、締め切りぎりぎりにばたばたと作業をする。急いでいるのにパスワードの再設定などめんどくさいと、イライラするのである。