2013年8月19日月曜日

フライパン

同居人は、美術学校の通信教育課程に数年通っていた。
通信教育というのは、レポートや課題作品を郵便で送って、添削やら先生のコメントやらが返ってくる、というやりとりで学習を進める。夏休みと冬休みには「スクーリング」というのがある。そちらでは「面接授業」と称するのだが、まあ普通に教室やアトリエで作業したり講義を聞いたり、という方法である。会社などでお休みが取りやすい時期だというのと、通学課程の校舎を流用するので、通学の学生の長期休暇中に授業が行われる。
つまり、気候的には非常に厳しい時期、ということである。

15年とか20年前くらいまではキャンパス内にはほとんど冷房設備のある教室やアトリエはなかった。「夏は暑いもの」だったのである。
さて、油絵学科のアトリエは、三角屋根のすてきな校舎である。北側に大きな窓があって、天井が高く、隣の教室は「斜め」に配置されていて、隣の教室との干渉度が低く、独立性が高い。アトリエは2階にあって、1階は大きな吹き抜けになった、空間的には贅沢なつくりだったりする。設計家にとっては代表作の一つになっているようなデザインである。
同居人は油絵の専攻だったので、夏はこの校舎のアトリエで作業をしていたのだった。通信課程の学生の間ではこの校舎は「フライパン」と呼ばれていた。天井は高いが天井裏はない。鉄板の天井は太陽熱を直に伝えるうえに、開口部が少ないので風が通りにくい。汗だくな作業だったそうである。

美術学校の校舎の中には「おしゃれー」で「モダーン」な外観だったりするのがあるが、デザインと住み具合というのは別物だったりするのである。

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