2016年3月12日土曜日

サイダー

もともとは、20年ほど前から資料整理が始まっていたのだが、昨年度から一気に再整理をすることになったようで、全部の資料を開いて詳細なリストを作り始めた。当時と今では何が違うかといえば、資料整理にあたってインターネットで情報が探せることである。
地名や、劇場名、演目や出演俳優、イベントのタイトルなどは、とりあえずグーグルさんで探してみる。当時では想像もつかないほど、多くの情報を探せる。劇場のチケットには日付と劇場名、座席指定しか入っていない。しかしグーグルさんで、当日どんな芝居を、どんな場所の席から鑑賞していたのか、ざっくり判明してしまう。びっくりである。
一方で、オンラインの翻訳ツールやサイトは、フランス語ではあまり役に立たないことも発見した。電子書籍の辞書も、英語以外はあまり適切なのがなく、結局大きな辞書を抱え込んで券面を読むことになった。複写に来たはずが、半分以上の日程が「資料整理」になってしまった。
ところがこれが、当時の風俗や文化もわかってなかなか面白い。違う世界を知る、というよりは、他人の生活の覗き見のような資料でもある。いつどこに行き、何を見て何を買ったのか、わかるわけで、船旅の途中でやけにサイダーの注文が多かったりする。連日のように「レモネード」と「サイダー」のレシートがある。サイダー好きな画家である。

思わず自宅のテーブルの上のレシートの品名を思い出し、帰ったら捨てなくちゃと考えた。 

2016年3月11日金曜日

整理

最初は700点、ということだったので、足掛け10日くらいの作業かなあと思っていた。
資料の箱の蓋を開けてびっくり、700というのは件数だった。つまり同類な資料は「1件」とカウントされていた。例えば、「メトロのチケット」などという「件名」で、14枚の切符があった。加えて「表と裏」という撮影が発生した。例えばチラシの類である。
撮影を始めて「同類の14枚の切符」でいいのかな、という話になった。資料リスト上では個別の識別番号がなく、撮影しても区別がつかないのではという話になった。急遽、資料整理に突入。個別の識別番号を確認、なければ振り直し、リストアップ、という作業を始めることになった。
始めてみたら、こっちの方がすごかった。例えば、件名「劇場のチケット」である。袋の中には数十枚のチケットが入っている。開けてみたら、席の番号や日付が入っており、現物資料上では「個別に識別可能」、そこで識別番号を振り、券面を読み取ってリストにする。

それがなかなか微に入り細に入りな作業で、面白くて止まらない。文面はほとんどがフランス語なので、大きな辞書を抱え込んで資料を読む。デパートの領収書が「赤ん坊用のおしめ」「女性用下着」だったりする。うーむ。これが資料というものなのか。大きな数字が印刷してある切符は「馬券」、賭け方によって微妙にデザインが違う。パドックの入場料は女性は半額。劇場やキャパレーのチケットもあって、留学よりは遊学なのか、よく遊んでいるのがびっくりである。ありあまるエネルギーである。 

2016年3月10日木曜日

複写

年末年始年度末のエキストラの作業は、美術館に寄贈されていた資料の複写だった。
1926年から28年ごろをパリで過ごしていた日本人画家の収集物で、図書館学で言えば「エフェメラ」と分類されるのかもしれない。担当学芸員が曰く、「目の前を通り過ぎた紙を全て掴んで帰国した」ようである。帰国したのが1929年、戦争を経て、家事や引越しにも遭遇せず、そのまま箱詰めされたような資料である。ヨーロッパへ行く船の中のメニューや、現地の交通機関や美術館のチケット、旅行の切符、くらいは、普通の人なら持って帰るかもしれないが、生活費の領収書、絵の具やさんのカタログ、デパートの包装紙や商品案内、書店の新刊案内、キャバレーのグラビアパンフレット、ホテルカード、ハイヤーの予約票、レストランの爪楊枝、絵葉書、新聞、などなどである。

ともかく数があるので、複写して資料整理、ということになり、複写を手伝うことになった。