2012年3月24日土曜日

麦茶


まあそんなことで、たいていの同級生は自宅に暗室を作って課題をこなしていた。

写真の現像は薬品を溶いた液を使うが、使い捨てではなく、何度か使って廃棄した。保存は遮光瓶という茶色いポリタンクが定番で、冷暗所保存が基本である。
ある日研究室に学生から電話がかかってきた。かなりパニックになっている。すでに最初から訳が分からない。「死んじゃう、死んじゃう」と叫んでいる。叫んでいるなら死ぬのは電話している当人ではないので、落ち着くように、こっちも必死でなだめる。どうも電話の学生のお兄さんが現像液を飲んでしまった、らしい。こちらに電話するより前に、早く病院に行くように、としか言えない。

数日後、当人がやってきた。少量だったので、近所の病院で処置をしてもらい、大事には至らなかったという。不幸中の幸いだが、なぜそんなことになったのか、と聞いてみた。家で暗室作業をした後、現像液をポリタンクではなく、手近な麦茶用のボトルに入れて置いていた、らしい。兄ちゃんは、ずいぶんと濃い色の麦茶だなあと思って飲もうとした、らしい。

教訓その1。ポリタンクに麦茶が入っているとは思わないだろうから、薬品は食品容器らしからぬ所定の容器に入れて、ラベルを貼っておこう。ポリタンクを買うお金はなくても、ラベルは貼っておけるはずだ。
教訓その2。家族が薬液を使った作業をしているなら、ボトルの液体は飲む前に匂いを確認しよう。現像液なら相当刺激臭がするはずだ。
教訓その3。麦茶やアイスコーヒーと見まごうような色になるまで現像液を使わないようにしよう。しかし、そんな色になっていたら、相当処理能力は落ちているはずだ。

デジタルカメラで作業をするようになったら、こんな心配をすることはなくなった。しかし、大学の共用冷蔵庫に入っている麦茶を飲もうとするときは、一瞬匂いをかごうかという体勢になってしまうのが習い性になってしまっている自分に気付くことがある。

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