ここ数年は、学生さんは携帯電話あるいはスマートフォンを持つようになり、固定電話を持たない傾向がある。当然のように、学生さん同士のコミュニケーションも携帯電話や携帯メールで行うようになる。
私の授業のひとつは、数名のグループを作って、作業を進めている。仲良しグループではないので、お互いの連絡先を交換するのは、授業初日の「儀式」である。その後は、グループの自主運営で作業を進めさせる。出席取って顔を見て講義する授業ではない。数名のグループで制作する授業では、学生同士の連絡と連携が作業のツボになる。
授業が数週間も進んだある日。あるグループで、一人の学生に連絡がつかなくなった、と言う。携帯電話も携帯メールも音信不通で、伝言ダイヤルにも入れているがレスポンスがない。連絡がつかないので、ここ数日の制作が滞っていると言う。
携帯電話以外の連絡方法は何か聞かなかったのか、と言うとそれしか知らない、と言う。連絡がつかなくなって10日近く、電話をかけ続けており、グループ全員がそれで作業がストップ、足踏み、諦めている感じだ。
当人は、地方出身者だったはずなので、アパート住まいしているはずだ。教務課で連絡先を聞いてみなさい、と教授する。しぶしぶ全員で事務局へ出向く。数十分後、全員がしおしおと戻ってくる。個人情報保護法の見地から住所や電話、緊急時の連絡先は教えられない、と言われたらしい。メンバーが揃わなければ、制作は進められない。連帯責任ですでに単位落ち確定必至ムードと感じているらしく、全員がどんよりしている。
学内に友人がいないはずはない。他のクラスメートやサークル加入の有無など調べてきなさい、と教授する。全員が渋々と出向いて聞き込みを始める。
どうも英語の授業には出ているみたい、という情報を誰かが入手した。同じグループのメンバーも同じ授業を受講中である。今の学生は、授業が違うと、同じメンバーでもアウトオブ眼中になってしまうようである。
ともあれ、学校には来ているので元気らしいと確定する。連絡は、したくないのか、出来ないのか、それはまだ分からないが。
違うクラスに仲良しがいるらしい、という情報を誰かが入手した。仲良しらしい彼はいつも工房をうろうろしている。早速つかまえて情報を聞き出しなさい、と教授する。
1-2日の探索と聞き出しの結果、当人は、10日ほど前に携帯電話を紛失したらしい、と判明。その間携帯電話なしの生活をしていたらしい。彼は学校の通用門から徒歩3分のところにアパートを借りていた。仲良しの彼はよく遊びに行くそうである。アパートの場所を教えてもらい、メンバーに早速彼のアパートに向かうよう、教授する。
「留守だったらどうすればいいんですか」
こちとら、既に目が点な状態である。「明日の授業時間には必ず教室に来るように」と張り紙してきなさい、と教授する。
あとで聞いたところ、音信不通の彼も、他のメンバーの電話番号を記録した携帯電話がなくなり、「連絡手段がなかった」ので「連絡が出来なかった」。
今時の学生さんは、携帯電話が唯一無二の連絡手段なのである。連絡手段がなかった、のではなく、携帯電話以外の手段を思いつかないとか、考えつかない、のである。なぜ手をこまねいて、10日間もぼーっとしていたのだろうか。
それにつけても、私はこの間彼らに何を教授していたのだろうか。謎である。
0 件のコメント:
コメントを投稿