2012年3月13日火曜日

養生


授業をやっていると、学生さんの反応がとっても新鮮なことがある。
新鮮を通り越して、びっくりもする。

ビデオカメラの撮影機材一式を担いで、学内で撮影する、というのが授業の条件である。
機材は、ハイアマチュア用というか、業務用というか、そのあたりの位置づけの機械である。電気屋さんで売っている、一般ご家庭用のビデオカメラよりも高価だし、扱いがちょいと違う。だから授業の始めに、物理的に機材を壊す方法をいくつか教えておく。
コーヒやビールをかける、砂にまぶす、自転車の荷台にヒモでくくりつけでこぼこの道を走る、お日様を直接長時間撮影する、火にかける、冷凍庫に入れる、一緒に風呂に入る、カメラケースに入れて屋上から落とす、などなど。オーバーだが、これに近いことをやってくれるのである。
現在の一般民生機器、つまり電機の量販店で並んでいるものの方が、駆動部分がなくて小さく軽く、生活防水程度の機能があったりするので、ある程度取り扱いがぞんざいでも、泣きたくなるような故障や修理代にはならない。機材が高価だと修理代も高額になるのである。もちろん貸し出し機材なので、故障してしまうと、他の授業や学生にしわ寄せがいく。
機械あっての表現なので、機械ラブでなくてはこの商売はつとまらない。
しかし、ビデオでなくても「機械」を扱った経験がない学生が多く、こちらがびっくりする行動に出たりする。

雨天の場合、屋外撮影は禁止、を授業の決まりにしている。
しとしとと小糠雨、どうしても屋外で撮影したいんです、と泣きの入ったグループがいた。
しかし、雨だからねえ。
「できるだけ雨のかからないところにいます」
「傘をさして養生します」
うーむ、ほんとうだろうねえ。
「はい、もちろんです」
雨がかかったら、責任は自分たちで持ってくれるだろうね。

返事だけは景気がいい。ほんとうかいなと、撮影現場を偵察に行く。
木立の下で、雨の降り込み方の弱いところに傘を広げて陣取っているグループ発見。
傘をさしているのは、役者をする学生だね。向こう側にいるのはディレクター役の学生で、カメラマン役の学生と傘を差しているようで、しっかりビニールコートまで着込んでいる。あれれ、カメラと照明補助機材は、小糠雨に濡れている。
おーい、傘さして養生するって言ってなかった? と走り寄る。
「もちろんです。僕たちも、傘やビニールで養生して風邪をひかないようにしてます」

いや違う、濡れてはいけないのは機材である。人間なんか、濡れても大丈夫だ。

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