試験監督業務は、実技科目によっては採点の準備や段取りまでを含むことがあった。
その頃、彫刻学科は募集人員がとても少なかった。
彫刻の実技試験はデッサンだけだったので、受験人数によっては体育館のアリーナに全員分の作品をイーゼルにのせて、1列に並べたことがあった。
6時間かけて自画像、というのがその年の課題だった。「必ず頭部と、手を片方入れる」というのが条件である。
試験会場では1人1枚ずつ鏡を用意してある。それを見ながら描くわけだから、左利きだと右手が画面に入る。表情はたいてい真面目な感じ、悩ましい雰囲気が多い。美術を志す学生は入る前からモラトリアムな感じである。首筋に手を当てていたり、片頬を手のひらで覆ったり、髪をかき上げていたりする。ポーズのつけ方もさまざまで個性が出るねえ、などといいながら一列に並べ終わって、みんなで最後の確認をした。
まんなかあたりにある1枚の「自画像」は、にっこり歯を見せて笑って、ピースサインを出していた。
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