大学に来ると、それまでの交友関係とは全く違う人種が混じってくるのが面白かった。
中学高校と違って、出身地の異なる友だちと知り合う楽しさとか面白さは、格段だった。
自分の常識は他人のそれとは違うことを知り、それがその後の自分の視点の多様性を培うことにもなった。
そんな中で、いつでもどこでもネタになることに、「北海道にゴキブリはいない」というのがあった。
本当か嘘かは分からないが、北海道出身の女子学生がアパートに出てきたゴキブリをコオロギと勘違いして捕獲して虫かごで飼育していた、というのである。これはどんなところでもよく聞く話なので、すでに「伝説」となっているような気がする。まさかそんな、と言って酒の肴になっていた。
私にとってその虫は「とってもイヤ」なものだけれど、それが「屁でもない」人もいることを知ったのも、大学の交友関係である。
別に北海道出身でもない彼は、虫嫌いではなかった。飲んでいる横を走り去る虫がいても、平然と飲み続ける人だった。そうして、彼は一人暮らしのアパートに、ずいぶんとゴキブリが訪問してくれるものだと感心しながら日々を過ごしていた。
「ホワイトマーカー」という白い油性ペンがある。画材として彼はよくそれを使っていた。当然、彼の部屋にはそれがごろごろしていて、ある日、虫の背中に「背番号」をつけようと思い立つ。つかまえては、ナンバリングして、リリースするのである。ナンバリングの仕方がまずいと、虫さんは死んでしまう。上手くナンバリングして、元気にリリースできるまでに、それなりのコツが必要だったらしい。一番、二番、三番、夏にナンバリングした虫は数十番になった。冬が来て、虫さんは出なくなった。翌年、暖かくなると、虫さんは活動し始める。彼はまたナンバリングをし始める。昨年からの番号を続けていく。ある日捕まえた虫の背中に、見覚えのある、白い番号があった。32番。冬を越して会いに来た虫だった。
繰り返すが、私は虫は苦手だ。現場に居合わせたくもないし、冬越しの感動の再会、その現場を想像したくはないが。
彼は彫刻科の卒業で、アーティストである。
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