2012年1月28日土曜日

攪乱

モチーフを使う試験では、10人前後にひとつのモチーフ台を用意した。
アトリエの大きさによっても違うが、ひとつのアトリエに2-3セットを用意した。
入試の場合、隣とモチーフが違っては「試験」にならないので、受験人数に対してモチーフを何セット用意するのか、計算の上でモチーフの準備に入る。
5-600人が試験を受けたとしても、50セットや60セットは必要である。こっちのモチーフはワインボトルだが、隣はウィスキーボトルではいけないのである。それだけの数が用意できるものでなくては、モチーフとしては指定できない。

ある年のモチーフに野菜を使うことになった。
当然学校からは八百屋さんに注文が行くわけである。
「キャベツL玉60個」。
近所の八百屋は当然いぶかしむ。
「学食からの注文でもないのに、こんなに多く、同じ大きさのキャベツの注文が」。
季節も季節だし、やっぱり入試関係かなあ、と思われる。
「明日の試験ではキャベツが出るのでは」。
予備校の方は情報網を敷いて、その手のネタを仕入れる。
「明日の試験、どこかの学科でキャベツがモチーフに出るのでは」。
前日の夜は、急遽予備校のアトリエで受験生を集めて、キャベツを描きまくる事前トレーニングが特別実施される。

試験をする側としてはこんなことになってはいけない。
八百屋さんにはこのように注文する。
「キャベツと大根と白菜を60個ずつ」。
情報攪乱作戦である。

リアリティのある話で、まことしやかにスタッフ間では語られていた。
しかし、本当にそのように注文したかどうかは知らない。
ただし、モチーフ1セットの予算は上限があるので、「マスクメロン60個」には絶対にならないのである。

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