2012年1月11日水曜日

シイタケ

デザイン系の学生であっても、1年生のカリキュラムに「彫塑」が組まれていた。とりあえず美術の基本だよ、という意味に解釈するとして、やりたかったのはデザインなんだけどなーと思いつつ、指定された作業服と道具を揃えて授業に向かった。
当時は「かなり厳しい授業である」と上級生からかなり脅しを聞かされた。出席はマメにとるし、サボるとみつかるし、講評はかなり辛口で、指導は容赦ない。授業の課題は「丸太から足首を彫る」といったものだった。めいめいが裸足になった片足を見ながら、黙々とのみを使う。端から見れば、ちょっと間抜けな風景だったに違いないが、本人達は単位欲しさに、いたって真面目である。出来上がる足首は、実物大以上のサイズになる。講評はごろごろと巨大な足首が並ぶ。
屋外では別のデザイン専攻の1年生が作業中である。こちらはまず、5-60センチ四方ほどのコンクリの塊をつくって、そこから野菜を彫り出す、というものである。野菜は、シイタケ、ジャガイモ、タマネギ、などが指定されていた。足首よりもフォルムとしては難しそうだなーと思って、横目で眺めていた。出来上がったら一抱えもあるシイタケやジャガイモやタマネギになるのである。まあ、出来上がりは足首よりも「かわいい」。ちょっとうらやましかった。

授業が終われば、作品は「お持ち帰り」が原則である。しかし、巨大な足首は、抱えて歩くのはちょっと重たい。コンクリのシイタケはもっと重たい。当然のように、自分に割り当てられたロッカー周辺に転がしておくことになる。課題なのだから、あまり思い入れのない学生も多く、なかなか持ち帰らない(物理的に持ち帰れない場合を含む)。一応課題であっても「作品」なので、お掃除のおばちゃんたちは、おいそれとは捨てない。数年間も、そこに同じ足首が、ほこりをかぶって、転がっていたりした。
アパートを近所に借りていたりすると、たまさか持ち帰る学生がいたりする。玄関先に記念品よろしく、シイタケが鎮座ましましていたりする。しかし、卒業して引き払う段になると、処分に困る。ゴミとしては出しにくい。自然とアパートの外、裏手の片隅、塀の際などに、さりげなく、そーっと放っておいたりする。
大学の近所を歩いて、古いアパートがあると、裏手の方に、コンクリのシイタケやジャガイモが転がっていたりする。大家さんからみれば、とっても迷惑な「野菜」である。

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