2012年1月6日金曜日

小石

現在のキャンパスに移転する前も、移転した後も、学校は駅から15分、20分程度歩いた場所にある。
私が学生だった頃、非常勤で教えにいらしていたOBは、移転前のキャンパスで学んでいた。そのうちのひとり、K先生は、ダンディですてきなジェントルマンだった。「洒落者」だったのは学生時代からだったんだよ、とやはりOBの先生にうかがったのは卒業してからだった。

駅から学校までは今のように舗装した道ではなく、雨が降ればぬかるんでしまう。美術学生はたいていが貧乏だったので、靴をダメにしないように、雨の時は下駄で通学したのだそうだ。ところが例のK先生だけは、雨が降っても革靴で通ってきたらしい。全身きちんとオシャレに決めて、だ。クラスの中でひときわ目立った存在だったという。

現在のキャンパスは、駅からの通学路はバスが通る車道ではなく、遊歩道を利用している学生が多かった。そこも以前は舗装していたわけではなかったので、雨が降ればぬかるんでしまう。下駄、という選択肢は私の時代はなかったし、行きは晴れて帰りは雨、ということも多かったので、朝から雨靴を履いて通っていたわけでもない。おかげで、靴は何足もダメになった。
暗くなれば、街灯も少ない。ちょっと夜中の一人歩きはコワイ道だった。
春先のある雨の日、帰りが遅くなった。傘をさして、駅まで歩いて帰った。既に暗くなった道で、目の前の小石を蹴ろうとしたら、空振りした。びっくりして振り返ったら、それは冬眠から覚めたばかりのように、のろのろと歩いているヒキガエルだった。

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