2012年1月14日土曜日

栄養

グラウンドの一角にプレハブ小屋があり、それが「風月」という学食だった。
安い、早い、味はこの際言及しない、という典型的な学食で、お世話になった卒業生も多い。ある年齢層の卒業生だと、その店の名前ヒトコトで、みんなが青春に逆戻りしてしまう、今や魔法の呪文である。

プレハブだけに、冷暖房は完備していない。
夏は暑いし、冬は灯油ストーブが持ち込まれる。
夏の冷やし中華は生ぬるく、上にごろごろと角氷がのっかってサーブされた。

友人がうどんを頼むと、おばちゃんが丼をつかんで渡してくれた。
おばちゃんの親指はどっぷりと汁の中に浸かっている。
「おばちゃん、指が……」とわななく友人は、女子校出身のいいとこのお嬢さんである。
おばちゃんはにっこり笑って「大丈夫よお、熱くないから」。

入り口入って、一番手前は、そばやうどんを茹でる釜である。
そのあたりで、食券を買うためだったり、お金をくずすために、釜越しに、お金をやりとりしていた。
営業終了後釜をひっくりかえすと、底の方に沈んだ小銭がいくつか出てきた。
たまたまそこにいた学生が、それを目撃してしまった。
おばちゃんはにっこり笑って「大丈夫よお、出汁が出るから」。

名物は「ミートおばちゃん」だった。
どんな定食を注文しても、左手におかずのお皿、右手にミートソースをしゃくうお玉を持って、「ミート、かける?」と景気よく聞いてくれるのである。
コロッケでも、アジフライでも、牡蠣フライでも、ハムカツでも、オムレツでも、何でもである。定食は何でも「ミートがけ」になった。

こうやって美術学生は栄養をつけて、大人になったのである。

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