今の図書館が出来る前は、かなり広い地べたがあった。半分ほどは梅林で、あとは「空き地」状態である。
雨が降ればぬかるむその「空き地」は、春先は建築科の授業で垂木のジャングルジム状のものが建ち並び、学園祭の間は模擬店が建ち並ぶし、陶芸の工房が鞴祭りで焚き火をしたり、なぜか誰かがいつの間にか大きな穴を掘っていたりなどした。
そんな「空き地」の一角に、そこそこの大きさの漁船が陸置きされていた。
新入生がやってくると一番初めに考えるのは、なぜそこに漁船があるのか、ということらしい。しばらくすると、課題などで漁船を構図に入れてスケッチしたり、写真を撮影したりして、学内風景として認識してしまい、不思議に思わなくなってくるようだ。
すでにナンバーや艇名もはげ落ちて、それなりの古びた感じで、しかも学校は海から遠く離れている。ある学生がしつこく、船の存在する由来を聞きたがるので、学内で調査することを課題に組み込んでしまった先生がいた。調べてみたら、あまりぱっとしない理由だったので、取材した学生本人はかなりがっかりしていた。
大学がいまの土地に移転する時期に、事務職員が知り合いから「廃船を引き取らないか」と持ちかけられたらしい。絵画のモチーフとしていいぞと言われ、もらいうけたということだった。学生は、もっと大げさな、ドラマチックな、あるいはロマンチックな理由を期待していたのだろう。
今考えれば、梅林の前、というのもかなり「唐突」なモチーフだし、移送料も安くはなかっただろう。移送料より廃船作業料が高かったのか、切り刻むに忍びなかったのか。
梅林も空き地も船も、新図書館の建設で跡形もなくなくなった。
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