2012年1月9日月曜日

モデル

学内、正門から見て一番遠くにある棟は日本画のアトリエである。
デザインの学生は、美術専攻の学生のテリトリーにあまり行く機会がない。入学したてのデザイン系の学生にとって、そのあたりは「未知の領域」であったりする。
花がたくさん植わっている花壇や、鯉がいる池、鳩や雉のいる小屋がある。とても牧歌的な趣味で、と思うのはデザイン系の新入生の常である。
そんな牧歌的な一角で、お昼休みのひとときをのんびりと過ごすようになる。女子学生はなぜか常に「餌をやりたがる」もので、その日も、鯉にパンくずをやろうと、池を訪れた。ところが、前日に池にたくさんいた鯉が、全くいなくなっているではないか。猫がすべて一夜にして食ってしまったのかと、あわててご注進に来たことがあった。

「花鳥風月」というが、これらは伝統的な日本画のモチーフである。趣味ではなく実益で校内で養っているのである。鯉さん達は、ときどき、めいめいが器に入れられて、日本画のアトリエで「モデルさん」をしているのである。「モデルさん」のお仕事が終われば、また池に放される。
小屋の鳥とてご同様である。
当時は放し飼いのあひるがいた。ときどき校内のあちらこちらを散歩していたり、掃除のオジサンの軽トラックにひかれそうになったりしていた。餌と寝床の場所が分かっているので、きちんとご帰宅はするのだった。
母の友人は、日本画家のおうちに嫁に行った。嫁さんのおつとめは、旦那様、お舅様、お姑様のお世話ではなく、「鳥小屋」のお世話だったそうである。

私が学生の頃、日本画専攻は、伝統的なモチーフが、課題や卒業制作に多かった。現在の卒業制作展では、花鳥風月どころではなく、モダンで伝統的ではない画題も多い。ちょっと見ただけでは、これが日本画かと思うようなものもある。日本画と洋画の違いは、溶剤や支持体なのかと思っていたが、最近はそのあたりもかなり緩くなっているようだ。「美術」の境目も、だんだんクロスオーバーになっているようである。

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