2012年6月13日水曜日

品切れ中

美術学校を受験するためには、デッサンが必須だった。木炭や鉛筆でひがな石膏像を黙々と描くのが「おきまり」である。定番はアグリッパとかパジャントとかモリエールとかミケランジェロとかマルスとかラオコーンとか、その他いろいろである。
受験する大学にしかない石膏像というのがあって、それが試験に出る可能性が高いというガセネタが伝わり、ひところやけに「馬頭」ばっかり描いていた時期があった。

受験予備校に置いてある石膏像はそれなりに気をつかって保存してあった。埃をかぶらないように、日頃はビニール袋がかかっていて、素手で触ることは厳禁だった。描いていると、ついでこぼこを感触で確かめたくなったりするのだが、予備校のデッサンは「目だけで描け」というのが合い言葉でもあった。
高校の美術室にあるのは、そんなに管理が厳重ではない。先生のいないときにそーっとプル-タスの肩などなでたりした。

美術学校に行けば石膏は教材室にごろごろ、美術資料図書館のエントランスにはやたら大きな石膏像がごろごろ、もう描き放題である。専攻はデザインだったので、入学後は石膏デッサンとは縁遠くなってしまったが。

ある日、学校の画材屋の店先に「ガチャガチャ」が設置された。
カプセルに入っているのは石膏像のミニチュアである。ヘルメス、メヂチ、アリアス、セントジョセフ、ジョルジョなんかである。おおっと思ってウケルのは、美大受験石膏像デッサン出身者だけなのでは、と思うし、受験デッサントラウマでそんなものもう見たくない、という学生が多いのではと思ったが、杞憂であった。

それなりに売れ行きがいいらしく「品切れ中」が多いのである。

0 件のコメント: