2012年2月25日土曜日

正解


今も昔も学生はアルバイトをする。
もちろんそれが本業になることもある。

普段の授業ではごく普通だったのに、ある日の授業で彼女は「すごい」格好でやってきた。ミンクのロングコートにハイヒール、やけにタイトなワンピース(その頃の言葉で言えば、ボディコン)、エルメスのスカーフ、シャネルのマークのアクセサリー、ヴィトンのバッグ。大概の学生は女子であっても工房作業なので、ひっつめ髪にすっぴん、よれよれのジーンズにスニーカー、という格好であった。およそ美術学校とは縁のない格好に、みんなが目を丸くした。
ばっちりメイクの彼女はこう言った。
「すいません、急ぎのご指名が入ったので、自分の講評が終わったら早退します」

彼女のお父さんは赤坂の高級クラブ経営者で、お嬢さんもお店に出ていた、と後から聞いた。
後から、というのは、その後彼女は中途で退学してしまったからだ。学校よりもクラブの方が社会勉強になると思ったのだろう。それはそれで彼女の出した「正解」ではある。

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