2012年2月16日木曜日

カメ


小学校低学年のクラス会議でよく話題になるのは「動物を飼おう」だそうである。

都心の小学校で、マンション暮らし、動物を飼えないご家庭が多く、どうしてもそういう話題が出るのだそうである。低学年だと、いぬねこうさぎはむすたーとりと、飼いたい動物オンパレードのリクエストで先生を揺さぶる。土曜日や日曜日、夏休みや冬休みの世話はどうする、といろいろと議論をすると、まあたいていが「無難」な線で落ち着くらしい。
だから、小学校の教室では、金魚やメダカなどが多いし、ハムスターなんかだと週末や長期休みは子どもの家へホームステイに出たりする。同居人のクラスではカメが選ばれたらしく、小さなカメをプラスチックの箱で飼い始めたそうだ。

当初は物珍しいこともあって、みんながこぞって世話をしたがる。
学年が上がると、クラス替えもある。カメさんのクラスはどうするか。
新しいクラスでは、飼い始めた前のクラスの責任は負えないと思われたらしく、だんだん世話がぞんざいになってくる。飼い始めた頃は小さくて可愛かったが、数年経つとそれなりに大きくなってすでに「可愛い」サイズではない。
カメさんはおとなしいから文句も言わないし、哺乳動物よりも比較的世話が焼けない一方で、なつかれているんだかどうだか分からない。
とうとう数年後の夏休みにはホームステイ先の提供もなく、その間の世話はどうしようかとクラス会議の話題にもならなくなった。

終業式の翌日。先生はどうしようかと考えあぐねて、カメさんの背中に白いマジックで、学年とクラスを書いた。
4年2組。
小学校に隣接するキャンパスには、ちょっとした池が何カ所かある。鯉がいたり、睡蓮が咲いていたりする。そこに、夏休みの間ホームステイさせようと思ったらしい。9月に再会したときに確認できるように、所属クラスを明記したわけだ。

9月。池で名前を呼んでも、手を叩いても、口笛を吹いても、カメさんは戻っては来なかった。

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