私の実技の授業は1クラス20名である。機械を使う実技と言うこともあって、それ以上の人数では機材が回らない。
同居人は別の美術大学で非常勤講師をしている。こちらは実技ではなく講義、200人以上の受講生がいる。1年生から4年生まで、年によっては聴講生がちらほらいる。受講学生の専攻分野も、絵画あり、デザインありと、その大学の専攻分野があまねく網羅されている。
2011年は東日本大震災のために、授業開始は5月始めになった。
6月の半ばも過ぎた時期に、女子学生がひとり、授業後に教卓まできて、こう言ったそうである。
「すいません、教室を間違えていました」
普通なら、初回の授業で気がつくはずだ。これで授業に出るのは1回目か、2回目なのかと聞いたら、もうずーっと授業には来ていたという。ただそれが、隣の教室だった。それを5-6回も過ぎて気付いたらしい。理由を聞いた。
「初回に行けなかったので、出席していたA子ちゃんに先生の風貌を聞いたんです。2回目にいった教室で、授業をしに来た先生を見て、A子ちゃんはいなかったけど、ああこの教室で良かったんだと確信しました。教室番号が違っているけど、あとで変更になったんだろうと思いました。それでそれから、その教室に通っていました」
うーむ、風貌ではなく、授業名とか教室配当、シラバスと内容を照合するなどで確信すべきだろう。そもそも普通なら、授業のシラバスで内容が違うことに気がつくはずだ。
「でも、先生の風貌はA子ちゃんから聞いたそのままズバリだし、シラバスと脱線した話をしているのかなって」
うーむ、普通なら2度ほど聞いて気がつくはずだ。
2ヶ月ほど、つまり都合6-7回が終了した頃、配付されたプリントや、持参しろと言われた参考図書、テストに出るよーと言われた授業のポイント、周りの学生の話で、どうやら自分が登録していない授業に通っていたことに気がついたらしい。
既に半期13回の講義の半分は終わり、出席回数から言えば、完璧にアウトである。
そちらの美術学校の学生さんは、いたくのんびりしている。
「いやあ、大変な学生がいましたねえ」
同居人と、学生に間違われた方の先生も、講師室でお茶を飲みながら、のんびりと答えたそうである。
背が低い、小太り、丸顔、メガネ、チョビ髭、丸刈り、オジサン、な二人である。
学生さんにとって、「オジサン」はあまり見分けがつかないのかもしれない。