2012年7月1日日曜日

西


そんな「失踪事件」があったねえ、と昔語りになりかけた、それから5-6年以上経った頃だったろうか。
件の失踪者を見かけた、という元学生が現れた。
社会人になって、夏休みに旅行した波照間島で、どうも見たことのある人がいる。呼び止めて話をすると、失踪した助手だったのだそうである。

元学生は、失踪者が担当していたクラスの学生だった。1年生だったので失踪するまで数ヶ月、しかしあまりにも強烈な「失踪」だったので、学生たちにとってはショックだったのだそうである。前日も普段通りで、何一つ変わったことが見受けられなかったので、その前日のイメージのまま、彼の頭には焼き付いていたらしい。
当の失踪者は、普段通り学校に行こうとして、自転車にまたがって道に出たら、正面に富士山があって、吸い寄せられるように西に走り始めてしまった、らしい。
それで西の果ての波照間島まで、海を越えてたどり着いてしまい、現地で生活し始めてしまった、らしい。

真っ黒に日焼けして、でもちょっと内気そうな笑い顔のままで、その後、家族に会い、学校にあいさつをしに来たそうである。そして、そのまますぐに波照間島に帰っていったのだそうである。

失踪の真相は、あまりにもきれいな富士山、だったらしい。

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