2016年1月10日日曜日

戦う

ブラック企業、ブラックバイトというのが、メディアで目についた2015年だった。社員を使い倒して放り出す、というのは、普通の社会ではあまり考えられないことなのだろうが、デザインや映像の現場では以前から聞くことがあった。好きなことを仕事にすることは、ある意味で幸せなことなのだろうが。

私が大学で助手をしていた頃は、バブルな時期でもあった。仕事はモーレツだったがペイはいい、という職種や業種もあった。
学生がよくあこがれていたテレビ業界の話である。
ポストプロダクション、というテレビ番組制作下請けの現場である。月曜日の朝、ボストンバッグを持って仕事場に行き、土曜日の深夜にバッグを持って自宅に帰る。日曜日にバッグの中身をコインランドリーで洗濯乾燥して、月曜日にその中身を詰めて仕事場に行くのである。職場には「仮眠室」があり、蚕棚のように2段ベッドが並んでいる。月間残業時間累計は、通常勤務時間を遙かに超える。ずいぶん以前のコマーシャルのコピーに「24時間戦えますか」というのがあった。もちろん「戦います!」な状態である。ペイはよかったが、金を使う暇がない。若い人がそれを貯めるか、といえばそんなことはなく、若造のくせに、ブランドバッグやファッション、ホステスが侍るような高級クラブにブランデーのボトルキープなど、妙な無駄遣いに走る。食事に行く暇がないから、高カロリー高脂肪の店屋物か、若い人のことで毎日ラーメン屋通いである。そんな働き方なので、数年で体を壊す。「しばらく休みます」な職場ではないので、当然のように代替社員を探す。お休み社員に給与を払う余裕はないから、辞めてゆっくり養生した方が、と人事担当者からはそれとなく言われる。医者からはしばらく休養、モーレツな仕事は辞めなさい、などと言われている。休職できそうな雰囲気ではないので、辞表を出す。若いから退職金は雀の涙、ちょっと休養して医者通いしたり入院したりしたら、たちまち貯金は底をつく。

すべてがそういった現場ではないし、ある程度の経験で少しずつ働き方が変わる会社もある。こうやって会社を渡り歩きながら、少しずつステップアップしたり、起業したりする人もいた。全員、ではないのだが。 

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