いろいろな意味で気合いが入っているのが卒業制作展である。勤務校では会期は3−4日ほど、展示期間中に講評があり、その意味でも学生さんは緊張している。
少なくともお祭り騒ぎをしているわけではなく、真面目に学業の成果を見せるわけだから、受験生には芸術祭よりも卒業制作展を見に来なさい、と言うべきである。
見ている方は気楽なものだから、単純に「作品並んでる−」だけで終わるのかもしれないが、教える側になるともう少し複雑ではある。
ここしばらくの卒業制作展の傾向は、といえば、良くも悪くもアート、ではある。難しいのは、並んでいる作品が、どういった「成果物」なのか、読みにくい、ということかもしれない。
少なくとも、油絵学科で絵画が並んでいたり、彫刻学科で木彫が並んでいたり、建築学科で図面と模型が並んでいたりすれば、学習の成果としては分かりやすい。デザイン学科や文化学科で、どちらかといえばインスタレーションやドローイングが並んでいたりするのが、最近は多いので、これはいったい、どういった「デザイン」なんだろうと、考えてしまうことがある。
私が助手だったずいぶんと前のことだが、となりの学科は、4年で選択したゼミの学習範囲の作品しか提出を認めなかった。舞台設計ゼミなら、並ぶ作品は舞台の図面と立面のドローイング、模型といったのが「作品」である。オペラ、現代演劇、古典劇、シェークスピア、歌舞伎、ミュージカル、といった違いはあるのだが。ある年、学生がゼミの学習範囲ではなく好きなことを自由に制作したい、と言い出してごねたそうだ。舞台設計ではなく、イラストや、インスタレーション、空間造形、油絵や日本画など、舞台設計ゼミでは教えてはいない技術である。担当の先生はうーむ、とうなって黙った後で言ったそうだ。
「学生なんだから、好きなものをつくりたい、という意欲は分かる。それなら、こちらも日頃の学習のプロセスや態度、これまでの学習の成果や成績などとは関係なく、好きなように採点させてもらう」。提出の規定として「学習範囲」なのだから条件外で対象外でも良いよね、あるいは、プロとしてそれなりにシビアにジャッジさせてもらうからね、という暗黙のだめ押しである。
その年にはそういった条件外の提出作品は展示されなかった。