いつも使うバス停留所のある通りを隔てた向こう、東京都側に、それなりの規模の公団住宅がある。築50年ほどになるだろうか、典型的な「団地」で、去年は是枝裕和監督の映画の舞台になった。これを機会に話題にもなったが、こちらも高齢化率が高く、県境の商店街は既にシャッター通り、コンビニの進出もなく、午後7時を過ぎると営業している商店はほぼ皆無、鮨屋に焼き肉屋くらいである。商店街の中ほどに、引っ越した当時、2000年には米屋があったが、1年後に撤退、しばらく空き店舗だったが、2年ほど前にデイサービスセンターが開所、朝はリハビリに来る老人の「通勤」ラッシュである。引っ越してからなくなったのは、豆腐屋、魚屋、総菜屋、自転車屋、天ぷら屋、定食屋、和菓子屋、米屋、本屋、タバコ屋、などなど。増えたのは、薬局と歯医者とデイサービスセンターである。
引っ越す前が渋谷区で、新宿から一駅め、アパートも小規模マンションも高層マンションも多く、商店街が近かった。若い独り者の住まいのアパートやワンルームマンションは入れ替わりが多い。住民の年齢層からか、夜遅くまで飲食店は営業している。駅から家まで歩く10分あまりの間にコンビニは3軒、今だともっと多くなっている。このあたりでは空き家が出来るとさっさと更地になって建て替えてしまうので、しばらく行かないと町の風景がかなり変わってしまう。一軒家数軒が、ワンルームの中層マンションになったりする。
利便性はいいのだろうが、窓から見える空が小さくて、夜中まで酔っぱらいの声が聞こえたりするようなところだったので、私はあまり落ち着かなかった。
住民の「新陳代謝」というのが、町の隆盛に関わるのだろう。地方都市では「移住」がキーワードである。ただ、結局子どもや孫の世代が住宅を「引き継ぐ」ことでしか、ロングスパンの定着はしないものだ。後がいないから廃業、という業者は、どこでもいる。戦後、土地に縛られなくなって、引っ越しが自由になったおかげ、でもある。
では、「跡取り」で全部解決するか、あるいは移住によって若い世代を引き込むことで解決するか、と言えば、こちらも怪しい。次の世代、いや30年ほどはなんとかなるだろうが、その子どもの世代がまた跡を取る、定着する、とは保証できないだろう。
団地を眺めていると、ハトロン紙が貼ってある窓がある。いわゆる「空き室」である。どういう家族が住んでいたのだろうかと、ちょっと気になる。
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