2017年10月12日木曜日

定番

10月に入ると、そろそろ半袖もしまおうか、という気になる日が増えてくる。そうは言っても、季節の変わり目で、気候は不安定、今日は暑くても明日はやたらに涼しかったりする。
街中を歩いていると、どこからか「クシコスポスト」やらカバレフスキーの「ギャロップ」が聞こえてくる。運動会定番のBGMである。
季節の変わり目で運動会当日が急に暑くなる、ということがあり、子どもの熱中症が心配であるから、最近の運動会は春に開催が増えている、と新聞で読んだことがある。最近は春も「マイムマイム」や「トランペット吹きの休日」が、どこからか聞こえてくる。
この手の音楽は、運動会では「定番」である。義務教育期間中であれば9年間は同じようなBGMを聞く。刷り込み、という現象である。すでに「軽騎兵」は、運動会以外のイメージが浮かばなかったりする。私は運動音痴で徒競走はいつもビリだったので、運動会はどちらかと言えばトラウマ、この手の音楽が聞こえてくると、気分は暗くなるのだが。
いまどきの中年世代だと、「天国と地獄」は、文明堂のカステラのコマーシャルも思い浮かぶ。ついでに、クマのような操り人形のぬいぐるみが、ラインダンス、という映像も浮かんでくる。実はこれはシーズンごとに、微妙に背景やら人形の色やら違っていたらしいのだが、そこはあまり覚えていない。音楽、人形、ラインダンス、カステラ一番電話は二番、である。最近はとんと見ない。ちょっとさみしい。

2017年10月11日水曜日

多数

小学校なんかの学級会で、何か決めごとをするときは、たいてい「多数決」だった。これに賛成の人は手を挙げてください、というやつだ。ことによると、それが「民主主義」だと教え込まれたような気がする。学級委員長、遠足で持参するおやつの金額の上限、中学校に入ると更にあれやこれやとクラスで決めることが多くなる。クラス委員、当番、部活、朝の自習の科目、普段の服装やら持ち物やら、挙手をしてください、である。
長じて美術という畑に片足を突っ込んで感じるようになったのは、多数決で決めるのはいかがなものか、ということだった。
確かに多数決、というルールがあれば、決められる「議案」というのはある。しかしそれは「正しいこと」とは限らないことがある。
授業の課題でグループ制作をやるときに、「多数決」によって、制作作品について決めるチームが、必ず出現する。4人編成のチームだと、やりたい人が3人いれば、そちらに「即決」してしまう場面を、よく目撃する。たいてい反対に回った学生が「だんまり」を決め込んでしまう。大人から見ると、それは他の人にはないユニークな視点だったり、ものの見方だったりする。「大多数の意見」はたいてい、無難で、ベタ、ステレオタイプで面白くなかったりすることが多い。
学級会の「賛成の人は手を挙げて」作戦だと、決をとっておしまいである。反対者がいたとしても「黙殺」されてしまう。しかし、「反対」者にも意見はある。「多数」な側は、それをきちんと理解しなくてはならない。ことによると、少ない「反対」側の意見が、「正しい」こともあるからだ。
「12人の怒れる男」という映画がある。主演はヘンリー・フォンダで、もとは舞台の戯曲である。舞台劇らしく、陪審員室のやりとりが、映画では大きな部分を占める。被告に対して大多数が有罪と言っているのに対し、無罪を主張している人がいる。判決は全員一致でなくてはならない。「大多数」派は、面倒くさいと言いながら、「無罪」の根拠を聞いていく。根拠を知るにつれ、陪審員の意見が、ひとり、ふたりと、無罪に転じていく。
「映像の作り方」を教えるときに、これをサンプルにするのは、陪審員室の動線の扱い方だったりするのだが、久し振りに見直しながら、今日の政治情勢を考えてしまった。「数が正義」とでも言わんばかりの解散、所属政党の旗色が悪くなると「数」を頼りに離党したり政党替えしたりする政治家。なんか、ひたすら多数決をとっているだけで、政治を回そうとしているかのようだ。それは「正しい」ことなのだろうか。

2017年10月9日月曜日

ブーム

実習授業では簡単な映像を制作してもらっている。課題の内容や進行方法は以前にも書いたことがある。面白いのは、その時の1年生の指向が見えることだ。「マイブーム」、という言葉があった。1年生の「ブーム」は、ティーチングアシスタントをしてもらっている4年生にとっては、「ブーム」ではないことが多い。たかが2−3年くらいしか年が違わないのだが、「ブーム」は確実に違うらしい。
美術学校、映像系の実技専攻コースなので、必然的にアニメーション指向の学生が多い。ジブリ、ガンダム、ディズニー、というのが彼らの学習動機だったり、目標だったりする。数年前は、ヱヴァンゲリヲン命、というほどマニアックな学生さんが多かったが、最近はそれほどでもない。
実写ドラマ指向な学生さんだと、好みのドラマシリーズとか、映画などがある。担当している授業で、10年以上前に流行ったのは「世にも奇妙な物語」風なもの、である。課題として作ってもらう作品のうち、クラスに数本は、その手のものが出た。現実世界とちょっと違う設定の世界で起こる出来事、といったものだ。この頃はまだテレビドラマを子どもの頃によく見ていた、という世代である。見ているものはほぼ横並びで同じなので、当然のように、脳みその中のアイディアソースも同じになる。
最近は、ご家庭にテレビはあっても、子ども部屋のコンピュータをインターネットにつないで配信動画を見ている、という状況である。テレビ、という言葉でくくっても、あまり共有できる番組やドラマがない。だからなのか、隣の人を見ながら授業をしているような気がする。ブーム、というよりも、右へならえ、なのかもしれない。

2017年10月6日金曜日

皆勤

9月はカリキュラムの都合上、ほぼフルタイムな授業スケジュールである。
午前中は1年生、午後は2年生の実技授業を見ることになる。教える方になって分かるのは、教わるよりも教える方が格段に大変だということだ。先生の時給が高いのは、それなりに大変だからである。
一番大変なのは体調管理だ。スケジュールががっつり決まっているので、おちおち風邪などひけない。学生なら、熱が出たのでおやすみ、といえるのだろうが、教える方はそうはいかない。一般事務業務と違い、ピンチヒッターなど存在しない。先生業をするようになって、友だちづきあいがとんとご無沙汰なのは、明日の授業が心配だからである。二日酔い、徹夜作業、夜更かしも、私的には厳禁である。寝不足に弱い、というより、寝不足になると判断力が鈍るので、作業に支障が出る。20代の頃は無理をしてそんなこともやってみたりしたが、結局仕事に集中できないので二度手間だったり、休憩が多くなってしまうので時間的に「お得」にはならなかった。40代を過ぎると無理がきかないと、さんざん先輩から言われた。おかげで、夜の会は出来るだけパスするようになった。
授業期間中は、ほぼ毎日学校に出向く。だから休日は家事と翌週の授業の仕込みで手一杯になる。おかげで、友人の展覧会やパーティーなども、申し訳ないが、パスすることになる。ごめん。
学生時代は考えても見なかった皆勤賞。ここ数年はあちこちに「ごめん」しているおかげで、ほぼ達成である。ごめんね。

2017年10月5日木曜日

パンク

かくして、学生さんの風体は自由である。
さすがに、いわゆる「コスプレ」風なのは、ここ数年の流行ではあるが。
以前は、風体で概ね専攻学科が分かったものだった。しかかし、最近の学生さんは実技と言ってもいわゆる「美学生」っぽくない。一般大学の学生さんと、外見ではあまり違わない。学内でコスプレして、高校の制服を着ていたりするので、なおさら、区別がつかない。
以前受け持っていた学生さんは、ロック研究会というサークルでバンド活動をしていた。バリバリのパンクロックバンドである。次第に風体が「パンクロッカー」風になっていく。進級すると、「パンクロッカー」度が上がる。男子学生だったが、胸まで長いロングヘア、パーマをかけてウェーブヘア、しかもヘアカラーを入れてメッシュヘア。もちろんいつでもさりげなくアイシャドウを入れている。夏でも革ジャン、安全ピンがあちこちについていて、背中にはドクロマーク。スリムなジーンズはあちこち穴が空いている。その頃はロンドンブーツではなく、ウエスタンブーツが流行だった。年間通してそんな格好なので、夏は汗だくで革ジャンを着ている彼を見る方が「暑い」、冬は穴あきのジーンズで穴から鳥肌が立っているのが見えるのが「寒い」。本人もバリバリのパンクロッカーのつもり、だったのだろう。何事も「パンクロッカー」たるスタイルのためと、暑くても寒くても、その風体は維持されていた。
4年生になると「就職活動」というのがある。夏休み明けに久し振りに学校に来た彼は、短髪、化粧っ気はなし、リクルートスーツでワイシャツにネクタイ、書類鞄で、研究室に推薦状をもらいにやってきた。最初は「どなたさまですか」と言いたいほどの別人ぶりである。
もともと優秀な学生だったので、結果的にはそこそこの会社には就職した。彼の「パンク」は単に外見だけだったんだねえと、卒業式後に、話題になった。パンクな格好で就職活動して、それを受け入れてもらえる度量の広い会社がないものかと、実は密かに期待していたのだが。

2017年10月4日水曜日

変身

夏休み明けは9月初め、勤務校は小学校並みに早い始業である。
授業は3週間の集中授業なので、予め研究室のスタッフに受講生の顔写真を用意してもらうことにしている。年間130人ほどの学生さんを見ることになっているのだが、それぞれ3週間ほどしかつきあわない。さすがに全員の名前と顔を覚え込むのは難しいからだ。
学生さんは4月に身分証明用の写真を撮影する。データが研究室にあって、それを使い回してもらう。ところが、大学に入って1−2ヶ月ほど経つと、最初の顔写真と違う人物になるケースがある。一番変化が大きいのは、髪型や髪色、メガネのカタチである。4月は生真面目風な女子高校生くらいな感じだったりするのが、5月になると頭が赤かったり、メガネがコンタクトになったりする。研究室で用意してもらう顔写真に「頭赤い」「頭青い」「頭黄色い」「頭短い」、パーマかけてアフロヘアになったら「頭爆発」などというメモを記入する。
身体的には、激やせ、激太り、などというのは、ほとんどいない。ファッションの見た目がかなり変わることはある。いきなりゴスロリ風になったり、ストリートダンサー風になったり、フェミニン風になったり、というのはある。これも「今はパンク」などというメモを記入することになる。
学生時代というのは、かくも風体は自由である。本人と確認できる程度の「変身」であれば、問題はない。問題があるのは、肉体作業な実習授業なのに「きれいめOL風」だったり、夏だと「ほとんどお肉丸出し」みたいな女子学生である。授業の内容に即したファッションが望ましい、のだが。