2017年11月15日水曜日

刷り込み

こういった「刷り込み」されたBGMというのは、運動会以外にもいろいろある。小学校によって曲目は違うのだろうが、朝礼の集合、休み時間の開始、昼食時、お掃除の始まりと終わり、下校時刻などなど、ことあるごとに音楽がかかる。著作権の関係があるのかもしれないが、たいていはクラシック音楽というジャンルだった。最近はもう少し今日的なポピュラーなものも使われているようだ。鑑賞の時間ではないので、作曲者が誰かとか、指揮者が誰か、など関係なく、「合図」として利用する。おかげで「別れのワルツ」が聞こえてくると、夕方だなあ、帰らなくっちゃ、と一瞬思ってしまう。条件反射である。
映画を作るときは、このような「刷り込み」音楽というのをよく使う。街中の風景で、小さく「クシコスポスト」を入れると、秋の運動会シーズン、という印象になる。雑木林の風景に、小さく「夕焼け小焼け」を入れると、近くに小学校があって下校時刻なんだなあ、という感じになる。
一般に流布している楽曲というのは、聞いている人それぞれに「先入観」がある。家庭の居間の映像に、小さい音で「天国と地獄」を入れると、「近くの小学校で運動会をやっている」と感じる人と、「テレビがついていて、コマーシャルをやっている」と感じる人がいる。作り手の側から言えば、状況として、後者ではなく前者を感じさせたいのであれば、「天国と地獄」だけではなく、他の曲もあわせる、などの配慮が必要になる。
ただ、大学生くらいだと、得てしてそんな配慮などしない。自分の持っているイメージでBGMを選ぶ。授業内の課題制作で、毎年数人は、胸キュンな青春ドラマをつくる。「ほんわか」なシーンに、女子学生が合わせたがるのは、オルゴール音楽である。曲目はいろいろあるのだが、ともかく「オルゴール」、なのである。私にとっては歯医者の待合室でかかっているのが、この手のオルゴール音楽である。オルゴール音楽が流れてくると、どうしても「歯医者の待合室にいて治療の順番待ちをしているビミョーな気分」になる。講評中にキュンとしているのは、胸ではなく、歯、である。

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