美術学校の学生にとってなくてはならないもの、と言えば、鉛筆に紙、であった。鉛筆1本持っていれば、食っていける、という時代もあった。華僑の必須道具は刃物、床屋料理人仕立屋という商売は、世界どこでも必須な商売である。
今や、それはコンピュータ、ということになるのだろうか。刃物も、上を見ればえらく高額だったりするものだが、コンピュータは桁が違う、しかも刃物よりも消耗品としての耐久性が短い。
しかし、勤務校では、学生の「必須画材」としてコンピュータはあまり推奨されていない。やはり桁が違うからなのだろうか。デッサン用の鉛筆や絵筆を貸してくれるアトリエはないし、よほど大型でなければ常用のカメラを貸し出すスタジオもあまり聞いたことがない。工房貸し出し機材は、学生が占有できるわけでもないし、24時間365日貸し出せるわけでもない。しびれを切らした学生は、自分で機材を調達することを考える。とある学生は、周辺機器も含めて高額なので、当然のようにローンを組み、分割払いにする。なんと英断かと、同級生から一目置かれた。2年の始めに36回払い、これで卒業制作まで何とかなる、と思ったはずだ。悲しいのは、こういった業界では日進月歩であることだ。12回のローンが終わったところで、機材もシステムもバージョンアップ、周辺機器も当然のように新機種を発表、24回が終わったところで、機材は既に「旧機種」になっており、購入時の金額でCPUの速度は倍増、内蔵HDDは容量が倍になっていた。卒業制作にかかる頃には既に「時代遅れ」の感があり、でもローンの残額があるので機種変更や転売が出来ない。結局、イライラしながら卒業制作を進めていた。
教訓。コンピュータはローンで買わない。