犬と暮らしていると、散歩は必須である。ある意味、義務になってくるので、それが出来る人と出来ない人で、犬を飼えるかどうか決まってくるのだろう。犬には人間同様トイレ関係とか、食後の運動とか、犬なりに生活時間帯があるようで、実家では定時に散歩というスケジュールが出来ていた。散歩をしていると、同じように、散歩している犬+人間と出会う。犬同士が挨拶したり威嚇したりするわけだが、そんなことが数回続くと人間同士が顔見知りになる。面白いのは、犬の名前は教え合うのに、人間の名前は教え合わないことが多かった。人間の子どもの付き合いと似たようなもので、「ポチのママ」「マロンのパパ」などと呼び合うようになる。挨拶は、「おはよう、ポチは今日も元気だねえ。ママもお元気そうで」という具合である。
ある日の夕方、実家の呼び鈴が鳴った。どなたですかー、と聞くと「サクラのママでーす」というお返事である。どこのスナックのオーナーか、家人が飲みに行って忘れものでもしたのかと思えば、犬の「サクラ」ちゃんの飼い主であった。