年度末ネタでよく出るのは、就職が卒業ではない、というものだ。
私が助手だった頃は、バブルな時期で、就職活動も早々に内定がたくさん出ていた。思わず、こんな学生があんな大企業に!、というケースもあって、研究室スタッフで、真剣に大丈夫かなどと心配した。遅刻の常習者で、授業中は居眠りか、タバコを吸うために廊下にいることが多く、課題もたいてい締め切り間際に提出、つまりいつもは締め切り後に駆け込み提出でごり押し、という学生だ。会社勤めに向いているようには思えない。その頃の企業内定は秋の初めに出ていた。後期になって、当該の学生は「どんなもんだい」状態である。就職が決まって余裕を決め、授業に出ずに趣味のバンド活動にいそしんでいた。4年だから、最後の実技は卒業制作である。こちらも締め切りすれすれ、お世辞にも優秀作、とは言えない。まあ就職が決まっているから、なんとか出してやるか、という教員の温情で最低点で滑り込みセーフである。まあ社会人になったら、生活も変わるから、真面目な会社人間になるかも、などと話していた。
卒業判定会議で判明したのは、彼が卒業所要単位を満たしていないことだった。研究室では実技授業を見ているが、一般教養や外国語の取得状況は把握していない。研究室では慌てて、学生に連絡をした。ところが全く連絡がつかない。携帯電話やインターネットのない時代である。実家の家族には「卒業旅行に行く」と言って、出かけたままだそうだった。友人の誰も、どこにどれくらい旅行に行くのか知らなかった。どうやらヨーロッパあたりに行こうかという話をしたらしい、というところくらいまではわかった。そうなると全く連絡がつかない、というわけだ。
卒業式に、彼は意気揚々とやってきた。ヨーロッパ帰りらしく、ゴロワーズの両切りをくわえている。友人と旅行の話で盛り上がっている。そこで、彼は自分の名前が卒業者名簿にないのを知った。そこで帰るのかと思ったら、ちゃっかり卒業式には列席し、謝恩会には出て、明け方まで飲み歩いたらしい。大企業という就職先は、そこのあたりチェックが厳しい。就職はキャンセルになってしまった。
4月に入ってから、何度か彼を構内で見かけた。卒業延期になって、講義を取り直していたらしい。翌年の卒業式にもやってきた。
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